雪のまつり


 とても静かな夜でした。
昼間積もった雪がやわらかな毛布のようにすべてを蔽って、何もかも眠らせてしまったかのようでした。
空には、まんまるの大きな月が輝いて、雪の上にやわらかな光をふりまいています。
今夜は、ほんとうに明るい静かな静かな夜でした。
 あんまり静かで明るいので、ゆうちゃんはベッドの中でまだ眠れないでいました。
何度も何度も寝返りを打っては、ため息をつきました。
「こんなにきれいな夜なんだもの。ドキドキして眠れないわ。」
そうつぶやいて、窓のほうへ目をやったとき、カーテンの向こう側で、光がチロリと揺れた気がしました。
ドキッとして、ゆうちゃんは目をこらしました。すると、また光がチロリと揺れました。
そしてまた、チロリ、と。
ゆうちゃんは、怖くなって、一瞬体をこわばらせました。でも、そのすぐ後、
ゆうちゃんは自分でもビックリすることに、赤いコートをパッとはおると、家の外へと
走り出していました。
 外の空気は、思ったよりずっと冷たくて、体にピィーンとしみました。
思わず手にハァッと息を吹きかけると、周りが見えなくなるくらい真っ白くなりました。
でも、寒がってはいられません。影が動いていったほうを見ると、何かが、ポォーンッ、ポォーンッと
はずんで、林のほうへと遠ざかって行きます。ゆうちゃんは月の光の中、目を見開きました。
「ゆきうさぎ・・・?」
それは、どう見ても、昼間ゆうちゃんが一生懸命作ったちょっといびつな雪うさぎに見えました。
ゆうちゃんは迷わず雪うさぎを追って、走り出しました。でも、積もった雪に足をとられて、
なかなか思うように前へ進めません。それに、本物のうさぎのようにピョンピョン
走って行くわけではないのに、あっという間に姿が小さくなっていきます。
ゆうちゃんは雪を蹴散らし蹴散らし、雪うさぎを追いかけます。怖い気持ちはどこかへ
行ってしまって、もう、ゆうちゃんの雪うさぎがどこへ行くのか知りたくて、知りたくて、
それだけでゆうちゃんは、ひたすら走りました。

 林はいつの間にか深まって、ゆうちゃんの知らない林になっていました。
まわりにある木々は、こげ茶や黒の幹じゃありません。
雪と月の光に染め抜かれたかのような青白い木です。いつだったか、こんな林の絵を見た気がします。
 ゆうちゃんがそんな風にちょっと周りを見ているすきに、雪うさぎは青白い林に
とけこんでしまいました。ギョッとして、キョロキョロしていると、林の奥のほうがぼぉっと
明るくなっているのが見えました。ゆうちゃんは、その光に吸い寄せられるように、
林の奥へ奥へと進んでいきました。
 すると突然、林がきれて、まるい広場に出ました。ぼぉっと明るく見えたのは、
そこで焚かれているかがり火でした。青くて、大きな大きなかがり火です。
その火の周りには、たくさんの雪うさぎたちが集まっていました。
フワッと跳ね上がっては、雪のひとひらのようにフワフワと落ちてくる姿は、
音楽がかかっていなくても、楽しいお祭りのダンスのように見えました。
白と青と銀の夢のような風景は、ゆうちゃんの真っ白な心の中に真っ直ぐ届いて、
ゆうちゃんは言葉もなく、身じろぎ一つせずに立ち尽くしました。
雪うさぎたちのダンスを見ているうちに、ゆうちゃんはさっきまで追いかけてきた雪うさぎを
見つけました。自分で作った、ちょっといびつな雪うさぎ。でも、ダンスはとても綺麗です。
一匹、また一匹とダンスを止めていく中、最後まで踊り続けています。

 そして、とうとう最後の一匹になりました。たくさん集まった雪うさぎたちの中から、
歓声が上がりました。空の星が一つスーッと流れて来て、ゆうちゃんの雪うさぎの頭の上で
止まりました。星は小さな、でも良く通る声で言いました。
「今夜の雪うさぎたちの中で、あなたが一番心をこめてつくられたうさぎ。
よって、あなたは明日の朝、最初の光のしずくになって、天に昇ることが許されました。」
その言葉が終わると同時に、広場の真ん中で燃えていたかがり火が、さらに青い輝きを増しました。
あたりは一瞬光にくらんで、何も見えなくなりました。

 気が付いたときには、ゆうちゃんは自分の家の前に立っていました。
雪うさぎを見に行くと、何事もなかったように、ちゃんとゆうちゃんが作ったところにあります。
「今夜のお祭り、私見たよ。一等賞だったよね。」
ゆうちゃんが雪うさぎに話しかけると、うさぎはてへっと照れたように見えました。

 翌朝、ゆうちゃんが起きてくると、お母さんが困ったような顔をしています。
「ゆうちゃん、あのね、昨日ゆうちゃんが作ったうさぎさんね・・・」
言いかけるのをゆうちゃんはさえぎりました。
「うん、知ってる。もう、お庭にいないんでしょ?昨日の夜ダンスで一等賞になって、
光になって、お空へ行ったの。」
お母さんはちょっと驚いて、そして、にっこり笑いました。
「ねぇ、うさぎさんのダンスのお話、お母さんに教えて。」
そして、ゆうちゃんはあの青と白と銀のお祭りの話を目を輝かせて始めました。
「あのね、昨日の夜ね、私眠れなくって・・・。」




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