inserted by FC2 system

2. 再会


 それから暫くして、妙なことに気がついた。
私が、いつ、何処に行っても、彼を目にするようになったのだ。
視線は合わない。いつでも微妙にすれ違うような場所で会うのだ。
ちらりと彼を見てみても、私を見ている様子はないのに、
なぜか、痛いほどの視線を感じた。
そして不思議なことに段々とすれ違う距離が近づいてくる。
一番初めは、線路をいくつもはさんだホームで向かい合わせ。
二度目は、道路のあちらとこちら。
三度目は、喫茶店の窓際で、コーヒーを飲んでいるそのすぐ外側を歩いていた。
そして昨日は、とうとう同じ歩道を肩が触れそうなほどの近さですれ違った。
今日当たりはぶつかる?まさかね。
私は、現実離れしたことを考えている自分を笑った。

 帰りはまた深夜だった。頭が重い。足も重い。
その上、耳鳴りもする。いやな音。金属を擦るような音がする。
ふと、人の気配を感じて、顔を上げた。
ぶつかりこそしなかったけれど、そこには、「彼」がいた。

 初めて、至近距離で、向かい合った。
身の危険こそ感じなかったけれども、驚きのあまり声が出なかった。
闇に溶けてしまいそうな、いや、
既に闇にこそ馴染んでいるような印象を受けた。
漆黒の髪に、漆黒の瞳。
私も日本人だから、目も髪も同じような色合いだけれど、
彼の目はなんと言うか、本当に黒いのだ。
星のない夜よりまだ暗い瞳。そんな感じだった。
 「なぜ、私を避ける?」
彼が、低めのでも透き通った声で言う。とても、悲しそうに。
避けているつもりは毛頭なかった。
第一、避けるも何もまず、接点がそもそもない。
そう言いたかったけれども、彼があまりに悲しそうで、
私は口ごもってしまう。
「そなたを長い間待った。わが姫…。」
 そ、そなた?わが姫?何処の時代の人よ?それに姫って誰よ?
どう見ても、姫という柄じゃない私は、他にも誰かいるんじゃないかと、
思わず辺りを見回してしまった。
こんなに綺麗な整った顔立ちをしているのに、可愛そうに狂人なのか?
でも、暗い瞳はしていても、狂った人のそれではない。
じゃあ、一種のストーカー?私は、全身に鳥肌が立った。
きびすを返すと、そのまま走り出し、近くの交番へと駆け込んだ。
 彼は、追っては来なかった。でもなぜか、逃れられた気がしなかった。




TOPへ    3.運命の歯車が回るとき へ進む
inserted by FC2 system