きよしこのよる

 サンタは、このごろ少し疲れていました。
「確かに、コンピュータ仕掛けのおもちゃは面白い。」
サンタはつぶやきます。
「じゃが、何というかニセモノって感じがするんだがのぉ…。
おしゃべりがしたいなら、友達とすればいい。
ペットが欲しいなら、本当の犬や猫や鳥と仲良くすればいい。
冒険なら、小さくてもいいから、自分ですればいい。」
そうは思っても、子供たちの望みどおり、サンタはおもちゃをプレゼント
していくしかありません。
本当は、心の翼を羽ばたかせられるようなプレゼントがしたいのに。
そんな風に考えていると、どうも自分の仕事が前みたいに誇りに思えなく
なってきました。
むしろ反対。子供たちに「悪意」をもばら撒いているような気がして、
どうも心と体が疲れてしまうのです。
「わしも随分と長く生きた。もう、わしの『想い』は古臭いのかもしれん。」
サンタはため息をつきました。
それは寒い夜の中、凍ってどこまでも落ちていくように思えました。

 たくさんの子供たちにサンタは次々とプレゼントを置いていきました。
どこかに冷たくなってしまった『想い』といっしょに。
そして今、小さな女の子二人の枕元に降り立ちました。
体に合った小さな靴下が二つベッドに掛けてあります。
サンタはちょっと笑いました。
今では古風に靴下を用意する子は少なくなっていたからです。
「可愛いお嬢さん方、君たちの欲しいものは何かね?」
サンタは大きな手をゴソゴソと小さな靴下の中に入れました。
お姉ちゃんの靴下の中には小さな紙切れに一言「こえ」と書いてありました。
妹の靴下の中には、「おねえちゃんのみみ」と書いてありました。
サンタは二人の寝顔をまじまじと見つめました。
「そうか、可哀想に。お姉ちゃんのほうは耳が聞こえんのじゃな。
なんとかしてやりたいがのぉ。わしは、お医者じゃないし、神様でもない。
耳を治すことはできん…。」
サンタは残念そうにうつむきました。
「いや、待てよ…!」
サンタはぽんと手をたたきました。
そして、禁を破り、二人の女の子を起こしました。

 眠そうに目をこすりながら、もそもそと起きた二人は、
自分たちを起こしたのがサンタだと知って、とても驚きました。
二人とも瞳はきらきら輝き、息も弾んでいます。
お姉ちゃんのほうは、ものすごい勢いで、てがひらひらと動いています。
妹のほうは声さえ詰まって、真っ赤な顔をしています。
サンタは大声を出されないようにくちびるに指を当てて、
しーっとウィンクしました。
「お嬢ちゃんたち、静かに。騒ぐとお父さんやお母さんが起きてしまうからの。」
サンタはお姉ちゃんにも分かるようにゆっくりとそして小さな声で続けました。
「ステキなプレゼントのリクエストをありがとうよ。
じゃがな、わしはお医者でも神様でもないから、
大きなお嬢ちゃんの耳を治してあげることは出来ないんじゃ、残念じゃがの。」
二人の女の子はそれはがっかりしました。
せっかくサンタさんに会ったのに、プレゼントは出来ないと言われるために
起こされたなんて。
お姉ちゃんが手をひらひらさせると妹がサンタさんに言いました。
「お願いがかなわなくっても、サンタさんに会えたなんて、
すっごいクリスマス・プレゼントだから、もうそれでいいって
お姉ちゃん言ってる。でも、私はイヤ。サンタさん、お願い!」
サンタはうんうんとうなずきました。
「そうじゃの。確かにお姉ちゃんの耳を治すことは出来ん。
じゃが、わしもサンタじゃ。
ちいっとばかりなら不思議な力も持ち合わせておる。
さ、二人とも寒くない格好をしておいで。ちょっとばかり遠くへ行くからの。」
二人は言われたとおり、コートを羽織りました。
振り向くと、サンタは窓の外に逆さになって手招きをしています。
二人が窓に駆け寄ると、ひょい、ひょいと屋根の上に引っ張りあげてくれました。
屋根の上には絵本と同じトナカイの引くそりが待っていました。
「うわぁ、見て見てお姉ちゃん!すごいよ。本物のトナカイさんだよ!」
ビックリがそのまま白い煙になっているかのように
二人の息がほわほわと見えました。
サンタはにっこりして、
「さぁ、そりに乗るんじゃ。一緒に星のしずくを取りに行こう。」
と二人をうながしました。

 優しい目をしたトナカイたち。
雪がなくてちょっと残念だけど、空には満天の星。
隣には赤い服を着た優しくて大きなサンタ・クロース。
乗っているそりは空を翔けています。もう、十分すぎるほどの素晴らしい夜です。
二人はサンタに寄り添いながら、うっとりとため息をつきました。
「お嬢ちゃんたち、眠ってはいかんよ。そりから落ちてしまうからの。
ほら、ごらん。空の一番高いところに見えるあの星まで飛んでいくんじゃよ。
あの星こそがしずくを落とす星じゃよ。」
サンタはそう言うと、そりをまっすぐに星に向かって翔けさせました。
でも、行っても行っても星が近付いてくる気がしません。
遠くにじっと動かないで、そりを見つめているようです。
「お、来るぞ。」
サンタがそういうと星からぽぅっと光が落ちてきました。
「あの光を捕まえるんじゃ。」
妹が、手をひらひらさせてサンタの言葉を伝えると、
お姉ちゃんは強く頷きました。
星の光のしずくはタンポポの綿毛のように、ゆっくりゆっくり落ちてきます。
その光を追ってサンタがそりを操ります。

 光のしずくを捕まえたのは、妹のほうでした。
「さ、小さなお嬢ちゃん、そのしずくを大きなお譲ちゃんに飲ませるんじゃ。」
妹はうなずいて急いでお姉ちゃんに飲ませました。
その瞬間、空の星全部がシャーンと鳴ったように思えました。

 お姉ちゃんは、ゆっくりと目を大きく見開きました。
お姉ちゃんの手が言います。
「風の音が聞こえる…。」
「私の声も?私の声も聞こえる?」
お姉ちゃんがうなずきます。
「トナカイさんの鈴の音も?」
またうなずきます。妹は嬉しそうに手をたたきました。
「すごいすごい!今度は声を出してみて。」
おそるおそるお姉ちゃんは妹を呼びました。
「さっちゃん…。」
その声は、銀の鈴を転がしたような声でした。優しくきれいな声でした。
二人はサンタにお礼を言いました。何度も、何度も言いました。
でも、サンタは少し浮かない顔です。
「お嬢ちゃんたち、そんなに喜んでくれて、わしも嬉しい。
じゃがさっきも言ったとおり、耳が治ったわけじゃじゃないんじゃ。
星のくれた小さな小さな魔法じゃから、
星が隠れてしまう朝にはもう耳は元のように聞こえなくなってしまうんじゃ。」
「それでもいい。それでも私とても嬉しい。私、心に覚えておくもの。」
ゆっくりお姉ちゃんが言いました。サンタもゆっくりうなずきました。

 一晩だけの魔法が解ける前に、サンタはそりであちこち回ってくれました。
風に揺れる木の音も、小川の流れる音も、凍っていく水の音も、
みんな聞かせてくれました。
そのたび二人の女の子は、顔を見合って嬉しそうにおしゃべりしています。
でも、いつまでもこうしているわけにもいきません。
サンタにはまだ仕事が残っていました。
「お譲ちゃんたち、悪いがそろそろおうちへ帰ろう。」

 二人はサンタに何度も何度もお礼を言いました。
サンタが帰るときには、いつまでも手を振って見送りました。
 サンタが行ってしまうと、お姉ちゃんは急いで両親が寝ている部屋へ
行きました。

「パパ、ママ、起きて。急いで起きて。」
二人とも何事かと思って飛び起きました。そして、自分たちを起こしたのが、
上の娘であることにとてもビックリしました。
「お、お前声が…!」
「そうなの、サンタさんのプレゼントなの。でも、ずっとじゃないの。
星のしずくの魔法だから、朝になったら、また聞こえなくなっちゃうの。
だから、起こしたの。私、どうしても言いたいことがあったの。」
ここでお姉ちゃんは深呼吸しました。
「パパ、ママ、本当にいつもありがとう。
私は、パパもママもとってもとっても好き。
はぁ、言えた。私ずっとこれが言いたかったの。
声に出していったら、きっと心全部伝えられると思って。」
そして後ろを振り向くと、ついて来た妹を抱きしめて言いました。
「それから、さっちゃんも大好き。
たまにはずるくて嫌いって思うこともあるけど。
今日もサンタさんに私の耳が治るようにお願いしてくれてありがとうね。」
妹はうなずくと、少し照れた顔で、『きよしこのよる』を歌い始めました。
やがてお姉ちゃんも声を合わせました。
それを聞いているパパとママが嬉しそうです。
たとえ、クリスマス・イヴのつかの間の夢でも。

 二人の歌声が響く夜、サンタもちょっと様子を見に来ました。
そして、満足そうに何度もうなずきました。
サンタは今、二人に会うまで冷えてしまった体が、ふぅわり温かくなったのを
感じていました。



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