いっしょに行こう!


 少し重たい扉をうんしょ!っと力を入れて開けると、
狭い玄関のすみずみまで、陽の光でいっぱいになりました。
あやちゃんは、玄関の戸を大きく開け放したまま、大きく息を吸いました。
空気は、濃い緑の香りでいっぱいです。
吸えば、指の先まで、新鮮になっていく気がします。
風がきらきら輝いて見えました。
 今日は、いい天気です。

 あやちゃんは、くるりと家のほうへ向いて、もう一度大きく息を吸うと、
静かな空気をビリビリ言わせるような、大きな大きな声で、
「行ってきまぁす。」
と声をかけました。
「はぁい。」
あやちゃんの声にパタパタとお母さんが廊下を走ってきました。
「いってらっしゃい。気をつけていくのよ。」
そう言いながら、お母さんはそっと服の襟を直してくれました。
「うん!大丈夫!」
はちきれそうな笑顔で、あやちゃんがお母さんに抱きつきました。

 すそに白いレースの付いたクリーム色のワンピースに
お気に入りの赤いリュックを背負ってあやちゃんはごきげんです。
「るる、るん、るん♪ るる、るん、るん♪」
足を高く上げて、はなうたも出てきます。
 家から出て、二つ目の角で、仲良しの大ちゃんに会いました。

 「あやちゃん、おめかしして、どこ行くの?」
大ちゃんが声をかけてきました。
「おいしいもの、食べに行くんだぁっ。」
答えてる間も、あやちゃんは、ぴょんぴょん跳ね回っています。
(え、おいしい物かぁ。おしゃれしてるし、新しいレストランにでも行くのかな。
おいしいカレーを食べに行くのかも!)
大ちゃんの口の中は、よだれで一杯になりました。
「あやちゃん、ぼくも行っていい?」
「いいよ!いっしょに行こう!」
あやちゃんは、嬉しそうです。
大ちゃんも嬉しそうです。
足を高く上げて歩くあやちゃんの後を大ちゃんが同じようについて行きます。
「るる、るん♪ るん♪ るる、るん♪ るん♪」
「らん、ら、らん♪ らん、ら、らん♪」
楽しそうに、二人のはなうたが混じります。

 小さな空き地を通りかかった時、ぴょっこり犬のグラトンが出てきました。
「二人とも、楽しそうだなぁ。どこへ行くの?」
グラトンが二人に声をかけました。
あやちゃんと大ちゃんは目を見合わせるとにっこり笑って
「おいしいもの、食べに行くんだぁっ。」
と声をそろえて言いました。
あやちゃんがぴょんぴょん跳ねて、大ちゃんがその周りをスキップしています。
その二人を見ているうちに、グラトンもワクワクしてきます。
(おいしい物だって?あの様子から見るにきっとご馳走だぞ。
すっごいおいしい骨付き肉かも!)
もう、グラトンの口からはよだれが垂れています。
「ねぇねぇ、ぼくも一緒に連れてってくれない?」
「いいよ!いっしょに行こう!」
グラトンは、嬉しくなってしっぽをブンブン振りました。

 あやちゃんが先頭で跳ねながら
「るる、るん♪ るん♪ るる、るん♪ るん♪」
その後を大ちゃんがスキップで
「らん、ら、らん♪ らん、ら、らん♪」
その後ろをしっぽをフリフリグラトンが
「オン♪ オン♪ オン♪」
二人と一匹の行進は、はなうた交じりで進んでいきます。

 背の高い塀の上で、うつらうつらしていた猫のアフェックが
小さな隊列の行進の声に、うるさそうに片目を開けました。
「ずいぶんと賑やかな行進だけど、みなさん、どこへ行くの?」
あまり興味もなさそうに、アフェックが聞きました。
でも、誰もそんなことに気を止めたりしません。
二人と一匹はうふふと笑うと塀の下でぴょんぴょん跳ねながら、
「おいしいもの、食べに行くんだぁっ!ねーっ!」
と、声をそろえました。
(おいしいものですって?)
アフェックのひげと耳がさわっと揺れました。
(踊りだしたくなるくらいおいしいものなのかしら?
もしかしたら、新鮮なお魚が山ほどあるのかも!)
それまで眠そうだったアフェックの目がしっかり開きました。
「それじゃあ、私もご一緒しようかしら?」
気取ってアフェックが言いました。
「いいよ!いっしょに行こう!」
一行は、二人と二匹になりました。

 先頭をあやちゃんが足を高く上げています。次を大ちゃんがスキップ。
その後ろをグラントがしっぽを振りながら歩いています。
最後をアフェックがしっぽを高々と上げ、しなやかに続きます。
小さな隊列は元気よく進んで行きます。
「るる、るん♪ るん♪ るる、るん♪ るん♪」
「らん、ら、らん♪ らん、ら、らん♪」
「オン♪ オン♪ オン♪」
「なーおん、にゃお♪ にゃお♪」
みんなの頭の中は、もう、ごちそうでいっぱいになっています。
口の中は、よだれがいっぱいです。
そんな行進にまた、声をかけたものがいました。

 「みなさんお集まりで、どちらへ?」
空から声をかけてきたのは、モンシロチョウでした。
みんなはウキウキと
「おいしいもの、食べに行くんだよねーっ。」
と身体いっぱいにほほ笑みながら言いました。
「まあ、すばらしいわ!」
(きっと、すてきな花畑に行くんだわ。そうに違いないわ。)
モンシロチョウは嬉しくなってしまいました。
「私も、ついて行っていいかしら?」
「いいよ!いっしょに行こう!」

 メンバーがまた増えました。誰もが、歌をくちづさんでいます。
ウキウキとした小さな行進は、
そのまま小さな林へと入っていきました。
緑の風がみんなの間を縫うように通り過ぎていきます。
そのたび、頭の上の木の枝が揺れて、
足元に散らばる光の模様が揺れて、万華鏡の中を歩いているようです。

 元気よく歩き続けた一行は、うっすら汗ばんでいました。
そして、そろそろ「おいしいものはまだかしら?」と思い始めていました。
やがて、先頭を行くあやちゃんが
「あった!」
と嬉しそうに叫びました。見るとそこには小さな林に不似合いな大きな切り株。
切り株の根元には、黄色い小さな花が絨毯のように咲き乱れています。
あやちゃんは、その切り株に向かって走り出していました。
大ちゃんも、グラトンもアフェックもモンシロチョウも
慌ててその後を追いかけました。

 あやちゃんは、切り株にたどり着くと、
リュックの中からバサバサっとビニールシートを取り出して、
大きな切り株にふわりとかぶせると、
「みんなどうぞ、好きなところへ座って。」
とニッコリみんなに声を掛けました。
続いて、リュックを逆さにして、大きなおにぎりを三つ出しました。
みんなはあっけに取られて、動けません。
「どうしたの?みんなで食べよう!」
あやちゃんは、相変わらずニコニコしています。
「あやちゃん、新しいレストランでカレーじゃなかったの?」
大ちゃんがおずおずと言いました。
「おいしい骨付き肉は一体どこにあるのさ?」
グラトンがキョロキョロしながら言いました。
「まさか、お魚が全然ないなんて言わないでしょうねぇ?」
アフェックが疑わしげに言いました。
モンシロチョウは、嬉しそうに足元の花で食事を始めていました。
「ん?何?持って来たのは、おにぎりだけだよ。
グラトンとアフェックは身体が小さいから半分ずつしてね。
大ちゃんと私は一個ずつね。」

 「たったこれだけ?」
大ちゃんはがっかりしました。
「たったこれだけ?」
グラトンもがっかりしました。
「たったこれだけ?」
アフェックもがっかりしました。
モンシロチョウだけが、幸せそうに蜜を吸っています。
でも、あやちゃんは、いっこうに悪びれた様子もなく、
ニコニコしながらおにぎりを配っています。
「お天気はいいし、鳥さんの歌も聞こえるし、
風は気持ちいいし、お花は咲いてるし、
みんなが一緒にいてくれるし、なんて素敵なの!
じゃ、食べよう!いただきまぁす!」
(たしかに気持ちのいいお天気だよね。)大ちゃんは思いました。
(うん、鳥の歌って、いいかもしれない。)グラトンは思いました。
(草の匂いの濃い、いい風ね。)アフェックは思いました。
(花一杯で、大ご馳走だわ。)モンシロチョウは思いました。
みんな、あやちゃんの嬉しそうな顔を見ているうちに、
一緒に嬉しくなってきました。
(カレーじゃなくても、ま、いいや。)大ちゃんが笑いました。
(骨付き肉じゃなくても、ま、いいや。)グラトンが笑いました。
(お魚じゃなくても、ま、いいわ。)アフェックが笑いました。
(あぁ、おなか一杯食べられて、幸せだわ。)モンシロチョウが笑いました。

 高級なレストランじゃないけれど、
小さな林の中にぽっこりと開いた切り株の周りは、
どんなお城の広間よりも、贅沢なダイニングルームです。
ヴァイオリンやチェロの演奏はないけれど、
遠く、鳥たちが歌っています。
木の間を通り抜けてくる緑の風は、火照った体を優しく冷ましてくれます。
ビニールシートを掛けただけの切り株のテーブルは、どこか温かく、
冷たい大理石のテーブルに引けを取りません。
それに、友だちがいてくれます。
たくさん歩いて、おなかもすきました。
 みんなで、「いただきまぁーす。」とおにぎりにかぶりつきました。

 「おいしーい!」
あやちゃんの言ったとおり、おいしい食事です。
みんなの笑顔が、小さな林の木々にこだましました。



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